ほんわかぱっぱオブ・ザ・デッド

明るいかんじでいこう

恋を売られること

映画のために2千円かけて電車でいくし、飛行機に乗ったりするのでそうして観た映画は旅の情景もあいまって脳内でズタズタに編集しつくされ、宇宙で唯一無二のものになっていたりする。人生だってそうだ。脳はいわば編集所であって、音楽をつけるも白黒にするのも完全に自分次第。地獄を見たとしても君が話せば天国になるかもしれない。とするならば俺は編集上手な人間になりたいし、ともすれば誰かの四苦八苦さえ編集してみたいという傲慢も出てきてしまうね。

 

先日、映画をみたあとに喫茶店に入るとカップルかと思われる男女がいた。

ともに二十代後半で微笑ましいが、どこか不思議に感じた。

男は私服で女は制服だったのだ。これはなにかの営業だとすぐ気づいた。

男は女に一人暮らしのあれやこれやを訊いている。主に家事のことをだ。

女はそこで予防線をいれる。

「さっきデパートに傘忘れちゃって取りに行かなきゃ」

これで立ち去る布石が打たれた。

男はそれが布石だとも気づかないし、これはビジネスではなく知り合い以上友達未満の初々しい会話だと思っている。

「実はこれ持ってきたんですよ」

取り出したのは雑誌のような本。嫌な予感がする。

「これ電子レンジで作れる料理のレシピ本で、三冊持ってるうちで一番数が多いのもってきました。◯◯さんこの前料理大変だって言ってたから」

あちゃー。そう大声で叫びたかった。違うよ、全然勘違いしちゃってるよこの人。

この関係はそんなんじゃないし、俺の全財産かけてもいいけど付き合うとかありえないよ。

女性はもちろん、ありがとうございますと言った。喜びあまって立ち上がらんばかりだった。そこで発せられてる黄色の笑い。君は気づいていないだろうな。

一枚ベールをかけられているだけでそれは嘲笑だよ。

 

まじ要らないんすけど

 

このセリフが渡す前に想像できなかったのか。

彼はまたそこからたたみかける。会社での不満を打ち明け(もちろんこれはパーソナルなことなんでという前提付けをして、あえて話しちゃうぐらい僕は心開いていますというアピールが見えてしまっている)、彼女はアドバイスを送る。

 

「みんなで話し合ったほうがいいですよ」

 

まるで臓物のない剥製のような応答だ。

まったく頭を使わず幼児用のおもちゃにさえ劣るアドバイス。

「いやあ、なんかプライベートなこととか相談しちゃってすいません」

「とんでもないです」

「こういうことって電話で話すのは迷惑かなって」

対面でこそ迷惑だと思う。

「いやいやとんでもないです」

「また相談してもいいですか?」

これだ。ここに繋げたくて、だ。

 

その後彼らの会話は一方通行だった。言葉こそ交わされていたがそこに心の交流は一切ない。ほぼ直接的な求愛こそあれそれをビジネスに取り込む営業ウーマンの実力を見せつけられた昼下がりであった……。